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遺産の自宅を相続人共有のままにしておきたい
父親が亡くなって、兄弟二人で相続を始めています。ただし、財産は自宅しかなくて、「どちらが相続するのか」「代償分割にするのか」「売却して、相続するのか」などの案を考えていました。しかし、話し合いがまとまらないので、ひとまずはこのまま共有名義にしておきたいと思っています。共有名義のメリットとデメリットを教えてください。
相続トラブルに役立つ知識
「共有名義」とは、複数の名義人で不動産を所有している状態のことをいいます。不動産が共有名義になっていることにより、メリットもあればデメリットもあります。
(1)共有名義のメリット
- 勝手に売却や担保設定をされない
共有名義になっているということは、その不動産の権利者は自分だけではないということです。とすると、原則的にはその不動産を自分の好き勝手にできないことになります。不動産全体の売却や、その不動産全体を担保に入れて借り入れなどを行う場合には、一人だけの意思ではなく共有名義人全員の同意が必要になります。ただし、全体を担保として借り入れをするより額は少なくなってしまいますが、名義人の持ち分のみを担保に入れた借り入れはすることは可能です。 - マイホーム特例を各人で使える
不動産を売却した際には、通常「所得税」(譲渡所得)という税金がかかります。
場合によっては、この所得税(譲渡所得)がとても多額になってしまうケースもあります。しかし、マイホーム(自宅)を売却する場合、その税金が大幅に安くなる特例を活用できます。
その代表例とされているのが、3,000万円の特別控除(通称、マイホーム特例)。
売却金額から取得費と経費を差し引いた残りの金額からさらに3,000万円を差し引をいてくれるというものです。要件などは細かく設定されてはいますが、特例を使えれば大分税金を抑えることができます。
そして、この特例を利用する際に、共有名義だった場合には各人で3,000万円の控除枠を使うことができるのです。そのため、二人での共有名義不動産を売却した場合には、6,000万円まで控除枠が広がるというメリットがあります。
(2)共有名義のデメリット
- 名義人全員の承諾がないと処分できない
共有名義人のうちの誰か一人が、その不動産全体を売却したいと思っていても、他の共有名義人が売却に同意をしてくれない場合には、不動産全体の売却はできません。
極端な話ですが、持分99/100と、持分1/100の共有名義人が不動産を所有していた場合、持分99/100の名義人が持分割合の多さを理由にして売却を主張していたとしても、持分1/100の名義人が反対すれば売却はできないわけです。だからこそ、共有名義不動産はトラブルが起こりやすいといえます。 - 名義人が細分化される恐れがある
共有名義人の一人が亡くなると、その相続人がまた共有名義人となります。そのようにして各共有名義人に相続が発生すると、その下の世代へと共有名義の権利が引き継がれていくことになりますから、どんどん共有名義人が増加し、その権利も細分化されることになってしまいます。
こんな状況で、「いざ、不動産を処分しよう」としたときには、共有名義人の数が大変な数になっていて、手続きのために名義人全員の同意を得なく必要がありますので、上述のようなトラブルが起こりかねません。実際、顔も合わせたことのない遠縁の親戚から、「不動産を処分するための遺産分割協議書に署名・捺印をしてほしい」との通達がいきなり届いたなんていう事例も少なくありません。
★用語解説★
- 代償分割
遺産の分割に当たって、共同相続人などのうちの一人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもので現物分割が困難な場合に行われる方法。