目次
相続順位の低い相続人に財産を残したい
70歳代にさしかかり、相続を考えるようになりました。妻は3年前に亡くなっていて、一人息子がいます。ただ、息子とのコミュニケーションはかなり薄く、疎遠になっていると言っても過言ではありません。そんなこともあって、近くに住む姪がかなりの頻度で訪問してくれ、いろいろ面倒をみてくれています。そこで、法定相続人ではない彼女にも相続させてあげたいと思っています。いい方法はあるでしょうか?
相続トラブルに役立つ知識
被相続人が自身の財産を誰かに承継させたいときに、相続ではなく遺贈を選ぶケースがあります。遺贈では、相続する相手が法定相続人である必要がないため、相続人以外の人に財産を渡したい場合に有効です。具体的には、相続順位の低い相続人に財産を残したいときに遺贈が選択されます。その遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
(1)特定遺贈
相続財産を受け取る人は被相続人から財産を承継する権利だけ与えられ、被相続人がマイナス財産をもつ場合は、その債務を負担する義務はありません。
遺言の効力が発生すると、特定遺贈が行われることになって相続財産の所有権が受遺者に移ります。そして、その相続財産は遺産分割の対象財産から外れ、残りの相続財産について遺産分割協議が行われることになります。
このように特定遺贈では、相続財産とその受取人が明確になっているため、相続で紛糾する可能性が低くなります。
(2)包括遺贈
遺産のすべて、または一部を一定の割合を示して贈与することです。たとえば、「配偶者の◯◯に私の所有する財産の50%を与える」などといった贈与の方式です。
包括贈与には、遺産を一人の受遺者にすべて遺贈する「全部包括遺贈」と、複数の受遺者に割合を指定して遺贈する「割合的包括遺贈」の2種類があります。全部包括遺贈では遺産分割協議の必要がなく、受遺者がすべての財産を承継します。
一方、割合的包括遺贈では、ひとつひとつの財産をどのように分割するかは、法定相続人が相続財産を分割する場合と同様で、遺産分割協議を行う必要があります。相続人以外の受遺者がいるケースでは、相続人と受遺者が一緒になって遺産分割協議を行わなければなりません。
包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同様の権利義務をもつことになるため、被相続人が所有していたプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も承継する必要がある点に注意しましょう(民法第990条) 。
(3)特定遺贈と包括遺贈のメリットとデメリット
- 特定遺贈のメリット
- いつでも遺贈の放棄が可能
- 債務については、特に指定がない限り負担する義務がない
- 相続人が受遺者になる場合は、特定遺贈でも不動産取得税がかからない
- 相続財産と受遺者が特定されているため、揉めごとが起こりにくい
- 特定遺贈のデメリット
- 遺留分を侵害するケースでは、遺留分減殺請求の対象となる
- 相続人以外が特定遺贈された場合は、受遺者に不動産取得税がかかる
- 遺言作成から遺贈までに時間があった場合、遺産の財産構成変化し処分している可能性がある
- 遺産分割協議に参加できない
- 包括遺贈のメリット
- 遺産の財産構成変化に対応が可能
- 具体的な分割は相続人で決めることができる
- 遺産分割協議に参加できる
- 包括遺贈のデメリット
- マイナスの財産も引き継ぐことになる
- 放棄するには3か月の期限がある
- 放棄は家庭裁判所への申請が必要となる
★用語解説★
- 法定相続人
民法によって定められた遺産相続する権利を有する者。遺言書がない場合は、この法定相続人によって遺産を分割することとなります(民法第890条、887条、889条、889条)。 - 遺産分割協議
相続人全員の合意で、被相続人(亡くなった方)の遺産の分け方を決めることです。 - 遺留分
遺言によって法定相続分を侵害された法定相続人が、一定の割合で遺言を否定して法定相続分の一部を取り戻すことができる権利のことです(兄弟姉妹を除く)(民法第1028条)。 - 遺留分減殺請求
法定相続人には、遺言によっても侵し得ない「遺留分」という最低限度の遺産に対する取り分が確保されています(兄弟姉妹を除く)。この遺留分を請求する権利のことを「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」と言います(民法第1031条)。