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「亡くなったら渡す」という口頭の約束は有効?
半年前、父親が亡くなり、兄と私の兄弟二人が相続することになりました。母親は、12年前に既に他界しています。兄は音楽の道に進みたいということで、レッスン費用・学費・楽器代など、かなりのお金を親から負担してもらっています。数年前、父と兄と私が会した際、父は兄に対して、「2000万円の現金を生前に渡すので、自分が亡くなった際には残りの財産は全て弟に相続させる」と言い出しました。兄も同意したので特に遺言書なども作成しませんでした。ところが、葬儀後、生前の約束どおり全てを私が相続する内容で遺産分割協議書を作成し、兄に署名捺印を求めたところ、法定相続分を主張すると言い出したのです。生前の約束どおり相続することはできないのでしょうか。
相続トラブルに役立つ知識
亡くなられた方(被相続人)から生前に「あなたに残すから」という話はよくあることです。しかし、被相続人が生前に発した「私の物は全てあげる」という言葉は遺言に当たりません。遺言は書面で残すことが大原則であり、「口約束」では遺言と認められないのです。
口約束が「死因贈与」として認められる場合も
ご相談のケースも、被相続人の言葉は「単なる口約束」であることは確かです。とはいえ、全くの無意味とまでは言えず、被相続人が「贈与の意思を示した」ということにはなります。死亡を原因として発生する贈与であることから「死因贈与」と呼ばれ、この口約束も死因贈与として認められる場合もあります。
しかし、「被相続人が言っていたから」と主張するだけでは死因贈与は認められず、次のような条件が必要になります。
- 証人の有無
死因贈与を主張する本人のほか、実際に見聞きした証人が必要となります。証人は、被相続人が贈与の意思を示していたことを証言できる人であれば、親族でもご近所の方でも誰であっても問題はありません。 - 贈る人と受取人の両名の捺印がある書面
証人がいなかった場合でも、その事実を証明する財産を贈る人と受取人の両名の捺印がされている書面があれば、条件を満たしたことになります。財産を贈る人と受け取る人の間で結ばれる「贈与契約」となるため、双方の同意を示すためにも両者の捺印が必須となるのです。 - 相続人全員の承諾
たとえば、土地の名義変更をする際には相続人全員の実印と印鑑証明が必要になることが多く、それらを相続人全員から取得できれば名義変更についての承諾が得られたことになります。したがって、証人がいて、なおかつ相続人全員の承諾が得られれば、死因贈与が成立することになります。
★用語解説★
- 死因贈与
贈与者(財産を渡す人)と受贈者(受け取る側)の間で、「贈与者が死亡した時点で、事前に指定した財産を受贈者に贈与する」という贈与契約を結ぶことを指します。