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相続前に準備しておくべきことは?
私は74歳・男性です。妻と子ども二人(長男・長女)がいます。まだ元気ですが、周囲では亡くなる方も増えてきました。頭と身体がしっかりしているうちに、妻や子どもたちが問題なく相続できるよう、いろいろ整理しておきたいと思います。そのポイントを教えてください。
相続前の対応策
大きく上げれば、次の3項目になります。
(1)遺言書 (2)財産目録 (3)戸籍謄本
できるところから揃えていきましょう。完璧な書類を求めるより、資料を作成し始めることが大切です。同時に安心して頼れる専門家も探し始めると、心強いですね。
(1)遺言書
遺言書の作成方法には、大きく分けて「普通方式の遺言書」と「特別方式の遺言書」の2種類の形式があります。
①普通方式の遺言書
一般的に作成される遺言で、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類の形式があります。このうち、お勧めは公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」。書き間違いなどのない、もっとも確実な遺言方法です。
●自筆証書遺言
筆記用具と紙、印鑑さえあれば作成可能。いちばん簡単にできる遺言です。
《メリット》
- 遺言の存在や内容を秘密にできる
- 立会証人、封入や封印は不要
- 費用もかからず、簡単に作成できる
- いつでもすぐに書き換え、変更できる(最後に書いたものが有効)
《デメリット》
- すべて自筆する必要があり、代筆やパソコンでの記述は不可
- 隠匿や紛失、改ざんのリスクが高い
- 遺言としての要件が欠けてしまう場合もある
- 遺言者の死後、遺言書が発見されないこともありうる
- 本人が書いたものか、遺言者の死後に争いが起きることもある
- 執行時に家庭裁判所の検認の手続きが必要
●公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう遺言。作成の際には、2人以上の立会証人、実印や印鑑証明書などが必要です。
《メリット》
- 公証人が作成するため、まず無効にならない
- 立原本が必ず公証役場に保管されるため、隠匿、紛失、改ざんの恐れがない
- 家庭裁判所による検認手続きの必要がなく、簡単に執行できる
《デメリット》
- 作成の手間と費用がかかる
- 2人以上の立会証人が必要
- 立会証人に遺言の内容を知られてしまう
●秘密証書遺言
「内容」を秘密にしたまま、「存在」だけを公証人役場で証明してもらう遺言。作成の際には、2人以上の証人が必要です。
《メリット》
- 代筆、パソコンでの記述が可能(自筆の署名、捺印は必要)
- 遺言書の「内容」を秘密にしたまま、遺言書の「存在」を明らかにできる
- 遺言書の偽造や変造の心配がほとんどない
《デメリット》
- 作成時に公証人が必要で、面倒な手続きと費用がかかる
- 公証人は遺言の「内容」まで確認するわけではないため、遺言としての要件が欠けてしまう場合もある
- 執行時に家庭裁判所の検認手続きが必要
- 遺言書の紛失や隠匿の心配はある
②特別方式の遺言書
「普通方式の遺言書」とは違って、特殊な状況に置かれた人が法律の定める方式で残す遺言です。
- 病気やその他の事情によって死期がさし迫っている場合
- 伝染病を患い、病院で隔離されている場合
- 船舶内などの一般社会から隔絶されている場合
形式として、次の4つがあります。
一般危急時遺言(一般臨終遺言) 難船危急時遺言(難船臨終遺言) 一般隔絶地遺言 船舶隔絶地遺言
!注意点
特別方式の遺言は、死期が差し迫っている場合など「やむを得ない状況」で行うことが認められている特別な方式です。そのため、遺言者が普通の方式で遺言を行えるようになってから6か月間生存した場合には、特別の方式による遺言の効力はなくなります(民法第983条)。
★まとめ★
普通方式の遺言書
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
特別方式の遺言書
- 一般危急時遺言
- 難船危急時遺言
- 一般隔絶地遺言
- 船舶隔絶地遺言
(2)財産目録
相続の対象となる財産を整理しましょう。次のような区分で分類しておくと便利です。
- 土地、家屋、これらの上に存する権利
- 構築物
- 果樹、立竹木
- 動産(たな卸商品、牛馬、書画骨とう品、車両・船舶、特許権、商標権、著作権など)
- 預金、株式、出資、公社債、ゴルフ会員権
- 生命保険金(保険証書
- 借入金、連帯保証人
以上の整理を早めにしておくと、相続人が「その財産を相続するかどうか」の判断をじっくり行うことができるようになります。
相続人は、次のような判断を行うことができます。
●相続放棄 ●限定承認
(3)戸籍謄本
出生時から現在までの戸籍謄本を準備しましょう。通常は、民法の定めによる相続人を容易に把握できるようになります。隠し子がいる場合などは、認知をしているかどうかによって相続人の人数が変わります。
!注意点
必要な戸籍謄本は、現在の本籍がある戸籍謄本を取得して、その戸籍への転入先の戸籍謄本を登録されている土地の役所に請求して取得していきます。出生地までの戸籍謄本を取得します。遠方の役所の場合には郵送でも請求出来ます。
★用語解説★
- 一般危急時遺言(一般臨終遺言)
疾病その他の事由によって死期が差し迫った状況にある人が行う遺言で、次の条件が必要になります(民法976条)。
1. 証人3名以上が立ち会う
2. 遺言者がその証人の1人に遺言の趣旨を口授する
3. 遺言の口授を受けた証人がそれを筆記し、遺言者および他の証人に読み聞かせる
4. 各証人が筆記の正確さを承認した後、証人がこれに署名押印する
なお、遺言の日から20日以内に証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に対して遺言の確認の請求を行わないと、遺言の効力が生じません。 - 難船危急時遺言(難船臨終遺言)
船舶遭難の場合において、船舶中で死期が差し迫った状況にある人が行う遺言。次の条件が必要になります(民法第979条)。
1. 証人2名以上の立ち会いをもって口頭で行う
2. 証人はその趣旨を筆記して、署名押印をする
この遺言の場合にも家庭裁判所の確認が必要ですが、期限は設けられておらず、確認ができるようになってから遅滞なく行えば問題ありません。 - 一般隔絶地遺言
伝染病のために、行政処分で交通を断たれた場所にいる人が行う遺言。警察官1人および証人1人以上の立ち会いをもって、遺言書を作成できます。(民法第977条)。
一般隔絶地遺言を行うには、次の条件が必要になります。
1. 遺言者、筆者、立会人、証人は遺言書に署名押印をする
2. 遺言を口頭で行うことは不可
したがって、遺言書は必ず作成しなければなりません。 - 船舶隔絶地遺言
船舶中にいる人が、船長または事務員1人および証人2人以上の立ち会いで作成できる遺言書(民法第978条)。
この場合も、上記の一般隔絶地遺言と同様に遺言者、筆者、立会人が遺言書に署名押印を行う必要がありますから、遺言書の作成は必須です。 - 相続放棄
法定相続人が、被相続人の残した財産がプラスの部分が多くても相続せず、マイナスの部分が多くても債務の負担をしないこと。相続放棄すると、「その法定相続人は初めから相続人でなかった」ことになります。
相続放棄をする場合は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、被相続人の住所地の家庭裁判所に申告しなければなりません(民法第915条、938条)。 - 限定承認
相続を受けた人が、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐという方法。マイナスの財産(借金)の金額がプラスの財産より明らかに多い場合や、わかっていない借金が残っている可能性がある場合などに有効です。
この場合も相続放棄と同じように、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所に申告する必要があります(民法第915条、民法第924条)。ただし、相続放棄と違って、相続人の全員が共同で申請しなくてはいけません(民法第923条)。 - 法定相続人
民法によって定められた遺産相続する権利を有する者。遺言書がない場合は、この法定相続人によって遺産を分割することとなります(民法第890条、887条、889条、889条)。