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遺言を隠蔽する行為は、相続欠格?
自分で商売をしていた父が、最近、亡くなりました。子どもは兄と二人兄弟なのですが、その兄は商売を継ぐことを拒否して家を出てしまったので、私が父と一緒に商売をしてきました。その父は、普段から「私に財産を残すから商売を継いでほしい」と口にしており、それを遺言書にして母に託していました。兄も、その遺言の存在は知っていました。ところが、父が亡くなってすぐ、兄は母から遺言を取り上げて、どこかに隠してしまったのです。こんな兄と財産を分け合わなければならないのは納得がいきません。
相続トラブルに役立つ知識
お兄さんが亡くなったお父様の遺言書を隠す行為は、「相続欠格」に該当すると考えられます。つまり、相続人ではなくなるということです。そうすると、あなたはお兄さんを除いて、お母さんと遺産分割協議をして財産を分け合うことができます。
(1)相続欠格とは
相続欠格とは、民法で定める「相続欠格事由」に該当した相続人から相続する権利を奪う制度です。民法は、「相続欠格事由」として次の事由を挙げています。
- 亡くなった人(被相続人)または自分より先順位もしくは同順位にある相続人を殺し、または殺そうとしたため刑に処せられた場合
- 被相続人が殺されたことを知りながら、これを告訴・告発しなかった場合
- 詐欺または強迫によって、被相続人が遺言しようとするのを、または取り消そうとするのを、もしくは変更しようとするのを妨げた場合
- 詐欺または強迫によって被相続人に遺言をさせ、または遺言を取り消させ、もしくはこれを変更させた場合
- 被相続人の遺言書を偽造したり、変造したり、破棄したり、隠匿した場合
(2)対象となるのは、有効な遺言書
欠格事由で問題となる遺言は、被相続人の相続に関する遺言に限られます。つまり、「相続分をどうやって分けるか」「誰が遺産を受け継ぐか」「遺贈」「認知」などを内容とする遺言に限られるということです。ですから、たとえば、後見人の指定や祭祀承継者の指定などを内容とする遺言は関係がありません。また、偽造、変造、破棄または隠匿の対象となる遺言は、有効に成立しているものに限られます。
遺言書を隠すことが上記の「相続欠格事由」に該当するというためには、「遺言書をわざと隠した」という故意があるだけでなく、遺言書を隠すことによって「相続で自分が有利になるように」と考え、不利になるのを妨げようとする意思(利得意思といいます)があることが必要となります。
ご相談のケースにおいて、お父さんが残された遺言書が法的に有効なものであったとして、お兄さんが「相続で自分が有利になるように」と考えて、その遺言書をお母さんから取り上げて隠した場合、お兄さんには相続欠格事由があるものと認められます。したがって、あなたはお兄さんを相続欠格者として、相続人からお兄さんを除いて、お母様と遺産分割協議をして財産を分け合うことができるわけです。